角川庭園の四季を詠む -牧 やすこ-
【春】
猫柳くすぐつたげな花穂(かほ)伸びて 梅東風(うめごち)やいそいそ詰めて旅鞄 主(あるじ)なき庭にたちつぼすみれかな いちめんの草木瓜(くさぼけ)あれば遠回り 雨戸繰る満点星(どうだん)いよよ重たげに 裏木戸のなかなか開かず庭石菖(にはぜきしやう) 【夏】
柄長(えなが)来て集ふや庭の蹲踞(つくばひ)に 花韮(はなにら)や野仏におくお賽銭 知らぬ間にひよろと浦島草の花穂(かほ) 石楠花(しやくなげ)や渋き煎茶をいただいて めだたざる檀(まゆみ)の花のきらきらと 野茨の咲くや虫来て鳥も来て 下野(しもつけ)やはつきりしない人であり 朴(ほほ)咲くや飛行機雲のつうと伸び ひいふうみ泰山木の花開く 青梅の落ちる音して風渡り 山梔子(くちなし)や咲かぬうちから香の強き 水の辺の箆面高(へらおもだか)と教へられ 雨上がるこんなところに半夏生(はんげしやう) 捩花(ねぢばな)やされど別れてしまひたる こぼるるは金柑の花葉陰に実 鳥の巣や百日紅(ひやくじつこう)の幹の洞(うろ) 【秋】
女郎花(をみなへし)ポンプの水の生ぬるく 縁先に桔梗(ききやう)一輪すと咲きて 萩咲いて今年も来たる琵琶法師 穂芒(ほすすき)や書斎の色紙書きかけで 【冬】
茶の花の葉陰に白く見えかくれ 蹲踞(つくばひ)の水まんまんと実千両 侘助(わびすけ)や飛び石伝ひ茶室へと 水仙や訪れる人絶えずして 以上30句