湯豆腐の湯気の向かうに父ひとり チェロ聴いて出るや音なき若葉雨 若葉冷え嗣治の裸婦白き肌 本堂の畳ひんやり椎若葉 ぽんぽんと音がしさうや鉄砲百合 ひらひらと栃の木通行く日傘 青楓庭下駄足に大きくて 夏の湯や極楽といふ婆ひとり 青嵐巻きスカートにからめとり うんとしか答えぬ人の端居かな