生きている記念日
2007年11月5日 朝日新聞「ひととき」 掲載
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63回目の誕生日を迎えた。年をとると、年を公表することはもちろん、「祝う」という気持ちは少ないだろうが、私は58歳の誕生日から変わった。 その日、私は医師から、腹部のがんの告知を受けたのだった。自覚症状もなかったのでまさに青天のへきれき。当時の私は、がんすなわち死という程度の知識しか持ち合わせていなかったので、突然地面が足元から崩れていく感じであった。 その年の12月には手術、そして化学療法というお決まりのコース。手術には7時間もかかった。お正月をはさんで抗がん剤の治療もはじまった。9月の退院まで、約10か月にわたる、つらくて長い闘病生活であった。 59歳の誕生日を自宅で迎えた時、私は心から自分を祝った。闘病中に知り合った入院仲間には、手術後、あるいは再発して亡くなってしまった方が少なからずいた。だから、1年間生きていられたことを感謝したのである。 ただがんは、再発転移を繰り返す。安心はできない。 「宣告」を受けたあの日以来、誕生日は、私が生きている「証」の記念日となった。これからは1日、1年をかみしめながら、たいせつに生きていこうと思う。5年目にあたる今年の誕生日を、駆けつけてくれた妹たちと一緒にケーキで祝いながら、そう誓った。