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「おっは!」で始まる一日
2025年09月05日 [ No.139 ]
◎ 私には一回り年上のボーイフレンド?がいる。私が八十歳だから彼は九十二歳。毎朝七時過ぎ、スマホへ、彼から「おっは!」というLINEが届く。絵文字付き。私も「今日はプール」などと、一言近況を添えた返信をする。それが、もう半年は続いている。毎朝、彼の「おっは!」には元気をもらっている。 彼は元職場の先輩。三年前、奥様を亡くされた。私も一人暮らしだから、「おっは!」はお互いの「生存確認」だ。彼が太極拳仲間とそうしていると聞いて、「私も」と、仲間に入れてもらったのだ。私の近況報告にウイットの効いた一言感想がつくこともあるし、彼も「今日はパソコンを修理に行く」とか「今日はリハビリ」とか近況報告をしてくるから、時にはやり取りが長くなることもある。 現役時代、彼はカメラマン。私は編集記者だったが、仕事以外、特に個人的には親しくはなかった。今も同じ。ただ、最近、彼の文才を知っていたから、「俳句を楽しむ会」に誘ったのをきっかけに、年3回は顔を合わせる。 彼は浦和住まいだが、毎年、金沢の高校時代のクラス会に新幹線に乗って出席しているし、人気者の彼は元職場のガールフレンドも数人いて、鎌倉へ紫陽花を見に出かけたりしている。普段は、地元で電動自転車で買い物をしている。その「元気」にあやかりたい。 私達は今のところこれといった大きな病気はない。この「おっは!」には、何の恋愛感情も義務感もないから、気楽。これからどうなるかわからないが、いつまでもこの「おっは!」が続けられればと願っている。 ところで最近、孤独死が増えている。昨年九月、元職場の同僚も、自宅マンションで亡くなった。一人暮らしだったから、脳内出血で倒れ、一週間も発見されなかった。同時期、中山美穂も浴室で亡くなっている。一人暮らしの私にはショックだった。だから、この「おっは!」は貴重だ。 ちょうど十年前、七十歳になった時、この「日々」にも詳しく書いたが、十二時間私に動きがないと、セキュリティー会社が駆けつけるという地元の高齢者見守りサービスに加入した。私は、五十八歳のときがんが見つかり、手術と抗がん剤治療をして、九死に一生をえた。その時から、「死」が身近になったが、即死ならともかく、半死半生で放置されるという状況だけは避けたいと思った。 七十歳でまず行ったのは、杉並区の保健所内にある地域包括支援センター(ケア24荻窪)というところ。高齢者や、その介護者を応援する相談窓口だ。 「高齢者緊急通報システム」の対象者は、区内に住む、六十五歳以上の高齢者のみの世帯で、慢性疾患(心不全、脳梗塞、脳出血など)があり、常時注意を要する方と言われた。私は健診の結果で、降圧剤ほかの投薬を受けているので対象とみなされ、加入できた。 利用料金は、私の年金額だと、月額なんと三百円! でも私もわずかな年金から、介護保険料、住民税を徴収されているから、それらも財源になっているのだろう。 まず区が指定する委託業者(私の場合はセコム)が自宅に来て、通報機、安心センサー、火災センサー、ペンダントなどを無料で貸与、設置してくれた。利用にあたり、自宅の鍵を、機器設置時に、委託業者に預けた。 急病時は、〈ペンダント〉を押すと、受信センターから救急車(火災の場合は消防車)の要請をするとともに、現場派遣員が駆けつけ、救助してくれることになる。 〈安心センサー〉は赤外線のセンサーで、十二時間人の動きを感知しないと自動通報してくれる。これは、トイレ近くの壁に取り付けてもらった。〈火災センサー〉は、台所と寝室に設置。煙を感知するとこれも自動通報してくれる。 外出時は、〈セット解除ボックス〉にライフカードを差し込んで引き抜くと「留守はセコムにおまかせください」、帰宅時は、同じ操作をすると「お帰りなさい」と、応答してくれる。突然死亡したり、意識不明になって、十二時間動きがないと、〈あんしんセンサー〉が自動的に通報してくれる。 この「高齢者緊急通報システム」は、各地方自治体によって取り組みはまちまちで、業者に「杉並区は恵まれている」と言われた。自分の住む地域にどんなシステムがあるか、自分のためにも、身近な高齢者のためにも、調べておくに越したことはないだろう。 首都直下地震はいつくるかわからないし、どこでどんな災害に出会うかわからない。すべてに対処するのは不可能だが、「おっは!」の朝の挨拶ともに、自分でできる備えだけはしておきたいと思っている。