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みんな、壊れていく……
2024年09月05日 [ No.135 ]
◎ 昨年7月、壁面にヒビが入っていたバスルームの全面リフォームをした。浴槽も洗い場も広くなったし、床は冷たくなく足触りもいい。換気扇は、暖房、洗濯物の乾燥など、細かく調節できる。その詳細は、この「日々」の昨年9月号に書いたが、それから1年。体にもなじんで快適に入浴している。 もうこれでこのマンションのリフォームや手入れは一段落と思っていたら、この5月、全自動洗濯機が壊れた(写真①)。洗濯のボタンを押しても、水がぽたぽたと落ちるだけで、洗濯が始まらない。寿命かなとあきらめた。あらためて購入当時の取り扱い説明書をだしてみたら、平成14年とある。22年使ったことになる。驚いた。白物家電の使用期限は一般には7年と言われている。いくら一人暮らしとはいえ、長期間、文句も言わず働いてくれたことを思えば、苦情は言えず、感謝するしかなかった。 すぐ防水パンの内法をはかり、古い洗濯機とその周囲を写メして、地元の家電量販店へ出向いた。それを見て同じメーカーのことしの目玉商品の全自動洗濯機を勧めてくれる。迷うことなく即決した。翌日、その洗濯機(写真②)が届く。古いものと、メーカーも、容量も同じだから、取り扱い説明書を片手に、自分流にすぐ使い始めてみた。 まず洗濯方法、洗濯時間、すすぎの回数、脱水時間、すすぎの回数の設定をする。そんなに汚れ物は洗わないので洗濯時間は少なめに、脱水時間は多めにと、前と同じように設定できた。洗剤も漂白剤も柔軟剤も、最初から指定の場所に入れておけばいいので、途中で柔軟剤を入れる手間が省ける。今の洗濯機は皆そうなっているのだろう。ゴミを集めるところは、そのつど取り除く。87000円だった、安くはない。以来、洗濯が楽しくなって、ほぼ一日おきに使うようになった。 ただほかの家電も、洗濯機と同じくらいの年月使っている。冷凍冷蔵庫(2012年製)、掃除機(たまに動かなくなる)、電子レンジ(時々動かなくなる)オーブントースター、炊飯器(タイマーは効かない)など、だましだまし使っているが、いつ壊れてもおかしくない状況だ。加えて、テレビ、ブルーレイ、ミニコンポ、さらには本命パソコンもいつ寿命がくるかわからない。考えると頭が痛くなる。 またいつもはずれがちだったクローゼット(写真➂)の蝶番が、とうとう自分では治せないほど、何箇所も壊れた。それまでは、はずれるたびに、自分でドライバーでビスを締め直していた。マンションに入居以来、ほぼ30年は使っている蝶番で、この蝶番は、クローゼットだけでなく、すべての開き戸に使われている。ただクローゼットの使用頻度が、圧倒的に多かったということなのだろう。 このマンションを設計した積水ハウスのその部門に問い合わせたら、すでに新築当時の細かな部品の記録は残っていなくて、同じものも廃番になっているだろうと。リフォーム屋を同行してきてくれて、そこに使える蝶番を探してもらった。12か所の蝶番(写真④)をすべて付け替えてもらったら、もう永年外ればかりを気にしていたクローゼットの扉が生き返った。全部で24000円。それまでの手間を考えれば、むしろ安いと思った。 さらに最近、いつもラジオやCDを聴いているミニ・コンポが壊れた。ラジオを聴く分にはまだ大丈夫だが、CDは聴けなくなった。古いCDはたくさん持っている。私は音楽を聴く時、パソコンやスマホやイヤホンで聞くのは好きではない。音楽をスピーカーで家中に小さく流して、その中で 書き物をしたり、読書したり、昼寝するのが好きだから、これもまた買い替えなくてはならないだろう。 そんなことを考えていた8月18日、アラン・ドロンの訃報が流れた。88歳という年齢や病状を思えば、そろそろとは覚悟していたが、いざとなると言葉もない。 大学時代、大隈講堂で「太陽がいっぱい」(1960年)、(写真⑤)を観て以来、何回、彼の映画を観たか数えられない。好きだった。ファン以上の感情を抱いていた。それも昔々の話。最後は、NHKの番組「ラストメッセージ」(2019年)で彼を見た(写真⑥)。彼は私達を十分楽しませてくれて逝った。涙より、物が壊れるのと同様、人は誰でも亡くなるのだという感慨が湧く。私もこの10月、いよいよ80代に突入する。 マンションや家電などは、そのつど対策を立てれば何とかなってきたが、私達住人はまちがいなく高齢化しつつある。住人の半数は同年代だ。これから先すべてどうなっていくのか、そのことは深く考えないことにしている。