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吟行って、たのしい!
2024年06月05日 [ No.134 ]
◎ 吟行ってご存じ? 俳句をやっている方は、日常的に使っているが、改めて文字にすると、「俳句や短歌の素材を探しながら歩くこと」だ。私の属している俳句結社「童子」の辻桃子主宰のモットーは「俳句って、たのしい!」。それを受けて、私は「吟行って、たのしい!」と、言いたい。机に向かって句を考えたり、ただ歳時記を繰っているより、はるかに刺激があるからだ。頭も足も目も耳も鼻も使うから、健康にもいいと思える。 出かけるところは、名所旧跡や、風光明媚な観光地とは限らない。むしろそれ以外のところの方が、吟行には向いている。私は荻窪に住んでいるが、歩いたりバスに乗って行ける近所の公園や庭園、川沿いなどの吟行が一番多いかもしれない。 「童子」の吟行句会に句友と出かけることのほか、気が向けば一人で行くことも少なくない。その場で光や風を感じ、花の香りを嗅いだり、鳥の声を聞いて詠むこともあるし、カメラ持参で出かけるので、あとでその写真を見ながら詠むことも多い。どこかへでかけて、句も詠まず、写真もとらないと言うことはまずない。それではもったいないと、思えてしまうのだ。 最近、心に残ったのは,筑波の古民家ギャラリー「つくば椿庵」だ。筑波山神社徒歩7分、つくば道沿いにある明治二年築の白い塀(写真①)に囲まれた古民家、旧杉田邸。この白塀に魅せられ、そこをますぶち椿子さん(童子会員)とご主人が定年後に購入し、筑波の四季を楽しみながら、古民家再生に取り組んでいる。 筑波は、椿子さんの母の生まれ故郷でもあり、「つくば椿庵」と名付け、二〇二三年二月二十三日にギャラリー、貸室としてオープン。ギャラリー(写真②)では、母屋の趣ある空間を生かし、古いお雛さまや五月人形などを飾って五節気を祝ったり、作品の発表やお教室、コミュニティの場として活用している。 この三月、友人達と、お雛様をしまう前にと訪ねてみたが、冠木門から、白塀、古民家の佇まいなど、句材にあふれていた。椿子さんのお話も楽しかった。 四月に吟行した「皇居東御苑」も、興味深かった。大手門から入る時、荷物検査がありいかにも皇居らしいが、入場は無料。天皇皇后両陛下のお住いになっている皇居の一角(東側地区)にある皇居付属庭園だ。皇居の由緒ある自然や歴史に思いを馳せながら、四季の変化や花々が見られるよう、多様な樹木、草花が配置されている。 御苑内は本丸地区、二の丸地区、三の丸地区に分かれているが、私達が歩いたのは自然が豊かな主に二の丸地区。百人番所、復元された日本庭園,雑木林(写真➂)、菖蒲田などがある。桜が満開の頃だったので、枝垂桜、花梨、石楠花、花海棠、花韮、射干(しゃが)などが咲き競い、濠には珍しいひれ長錦鯉が泳いでいた。御苑内を馬車列が演習していたのも、いかにも皇居らしかった。 御苑内の、皇居三の丸尚蔵館開館記念展「皇室のみやび」を観られたのも、思いがけなかった。第三期だったので、テーマは「近世の御所を飾った品々」。歴代の天皇は、学問を始め文化芸術に造詣が深く、それらの保護にも熱心だった。そのため、各時代にさまざまな品々が集積され、受け継がれてきた。開館記念の第三期では、藤原定家の「更科日記」を始め、伝狩野永徳「源氏物語図屏風」(写真④)といった、近世の御所や宮家を飾った書画や工芸、楽器などが紹介されていた。入場には、ウェブサイトより予約が必要だが、七十歳以上は無料となっているのも、嬉しい。 地元荻窪では、大田黒公園の裏庭広場で四月に行われた「春の野草展示会」(写真⑤)が面白かった。昭和五一年に発足した「杉並野草の会」主催で、今年で四八回目。さすがにコロナ禍の最中はお休みだったが、すぐ再開。それぞれが丹精込めた春の野草が並んでいた。野草とはいえ、地味な花ばかりでなく、セイヨウオダマキ、ヤマシャクヤク(写真⑥)、オキナグサ、リュウキンカ、ミヤコワスレなど、きれいな花も多いから、目を奪われる。 さて吟行まではいいとして、俳句作りは難しい。でもこれだけネタがそろっているのだから、あとはそれぞれの努力しかないだろう。その一部は、巻頭のPHOTO俳句でご覧いただきたい。