どうなる? 「おひとりさま」の最期
2023年10月05日 [ No.128 ]
◎ 今月は私の誕生月だ。誕生日を迎えれば、傘寿まであと一年。七十代から八十代になるということは、いよいよという気がする。 女性学の第一人者であり、「おひとりさま」を貫く生き方のロールモデルとしても知られる社会学者・上野千鶴子さんは、おひとりさま三部作に続いて、一昨年は『在宅ひとり死のすすめ』(文春新書)を、昨年『最期まで在宅おひとりさまで機嫌よく』を刊行した。 この本は、上野さんが過去十年間で「おひとりさまの生き方」について語り合った女性十人との対談を一冊にまとめたもの。登場するのは、澤地久枝さん、橋田壽賀子さん、下重暁子さん、桐島洋子さん、村崎芙蓉子さん、若竹千佐子さん、稲垣えみ子さん、香山リカさん、柴田久美子さん、荻原博子さん(掲載順)の十名。対談時の年齢は、最高齢が橋田さんの九十三歳。続いて澤地さんが九十歳。若いほうは香山さんが五十二歳、稲垣さんが五十五歳だ。この十人のうち、残念ながら橋田さんは亡くなられたが、残りの方々には、これから先の老いかたも見せていただきたいと思う。 当然ながら皆さん、個性も生きかたも違う。結婚歴のない真正おひとりさまもいれば、パートナーや子供がいる人、伴侶を亡くしておひとりさまアゲインになった人など、境遇もそれぞれ。ただ共通しているのは、自分なりの生き方を貫いている方々ばかり。各対談の後についている、上野さんが当時を振り返って心境を綴った「うえのの目」は、なかなか鋭くて、見逃せない。 まず、ノンフィクション作家の澤地さんは真正おひとりさま。四十年近く前に、最後まで過ごすことを見据えて家を建て替えた。完全におひとりさま仕様の家だ。2020年に自宅で転倒し、要介護生活を送った。当初は介護保険の使い方を知らず、家政婦に一日一人、1万円以上も払った。それからやっとケアマネージャーの存在を知って、いい制度だと思った。「私はこの家でひとり死ぬんだ」という潔い覚悟は、昔も今も変わらないそうだ。 続いて、下っていく現実を受け止めて「親ですもの、子供に迷惑をかけたっていいじゃない?」というのは、桐島さん。未婚で三人の子供を産み、シングルマザーとして子供を育て、結婚、離婚も経験している。フルコース以上の人生だ。「自分のことは自分で始末をつけたいけれど、他人様に迷惑をかけたり、お国の世話になったりするよりは、身内、とりわけ子供がまず責任を受容してほしい」といい、まさかの認知症を発症したのちは、次女(桐島ノエルさん)と同居をはじめた。 また、当代きっての庶民の家計に詳しい萩原博子さんは、来るべきその時を、不安でなく期待で迎えるための「お金」と「心」の備えに言及する。六十歳の段階で貯金は一千万円をめざしたいという。住宅ローンは完済していて借金がなく、子供は社会人になっている状態なら、不測の事態に備えられる額だ。サラリーマンはここに退職金がプラスされるので、あとは節約でなんとかなる。加えてお金ばかりでなく、安泰な住処があって、人間関係が豊かか否かが老後の幸せを左右するから、「人持ち」になる極意も身につけたいと締めくくる。 上野さん自身は、この十年で前期高齢者を経て、いよいよ後期高齢期が目の前。以前は高齢のひとり暮らしというと、「お寂しいでしょう」とか「おかわいそうに」と同情されたりもしたが、今やそんなことは少なくなった。独居高齢者への偏見がなくなったいう点において、上野さん自身の功績も大きかったのではないだろうか。 終章では上野さんが人生百年時代を迎えた今の時代に叶える「在宅ひとり死」を徹底研究。これから人生後半を迎える女性たちに勇気を与えてくれる。さらに今年は、小島美里氏との共著で『おひとりさまの逆襲』も刊行している。 「真正おひとりさま」の私はどうかといえば、貯金はわずかだが、友人や知人、親戚には恵まれているほうだ。住処はわずか56㎡の一LDKのマンションだが、一人暮らしには不足はない。中央線の駅から徒歩四分という立地は何ものにも替えがたい。買い物も病院も図書館も近い。この本を読んで、初めて近所の保健所にある地域包括センターに話を聞きに行ってみた。介護保険制度による「訪問医療」「訪問介護」「訪問介護」も、いざとなれば受けられるようだ。 ただ上野さんによればその雲行きがあやしそうで、「介護保険の後退を絶対に許さない!」という叫びを、『あとがき』に代えている。私も今のところ上野さんと同じく、風光明媚な老人ホームや便利が取り得の老人施設より、機嫌よく「在宅ひとり死」を目指したいと考えている一人だ。上野さんといっしょに「介護保険の後退を許さない」と、叫びたい。