『70歳からのおしゃれ生活』、実践してます!
2023年2月05日 [ No.120 ]
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私が「おしゃれ」という言葉を意識したのは、実用誌「主婦の友」から、インテリア誌「プラスワン」に異動したとき。実用誌のキーワードは、「役に立つ」ことだったが、インテリア誌では、何より「おしゃれ」が重要視されていた。暮らし全般が「おしゃれ」というモノサシで測られ、おしゃれでないものはどんどん削除する。最初は戸惑ったが、そのうち慣れておしゃれ道をひた走っていた。私も、自分自身「おしゃれ」が好きだし、愉しいということに気がついたから。 昨年この本を見つけて、すぐ手が伸びた。著者の中山庸子さんは、エッセイストでイラストレーター。1953年生まれのおしゃれな人だ。そしてこの本のサブタイトルが、5人の「かっこいい人」から学ぶだ。その5人というのが、宇野千代さん、沢村貞子さん、白洲正子さん、高峰秀子さん、向田邦子さんという豪華メンバーなのだから、文句のつけようもない。私も彼女達のエッセイは何冊か読んでいた。 この5人を簡単に紹介すると、宇野千代さんは1897年生まれ。小説家、エッセイスト、着物デザイナー。尾崎史郎、北原武夫、東郷青児など多くの著名人との恋愛、結婚歴あり。 沢村貞子さんは、1908年生まれ。女優、エッセイスト。生涯に350本以上の映画に出演している。ドラマ、舞台でも名脇役女優として活躍している。 白洲正子さんは、1910年生まれ。エッセイスト。樺山伯爵家という出自のため、幼少期から能や骨董に親しむ。夫は白洲次郎。骨董収集家としても著名。 高峰秀子さんは、1924年生まれ。女優、エッセイスト。子役から半世紀にわたり映画女優として活躍。夫は松山善三。エッセイの代表作は『瓶の中』、『わたしの渡世日記』など。 向田邦子さんは、1929年生まれ。脚本家、エッセイスト、小説家。『時間ですよ』、『寺内貫太郎一家』など人気ドラマの脚本を手掛ける。小説では直木賞受賞。 中山さんは、「はじめに」で、「年々、おしゃれやかっこよさから遠ざかっていく、残念な自分を何とかしたい」が、主なテーマとなっていると書いている。「少しでも今の自分を底上げすべく、今の自分が興味を抱けるカッコいいお手本」のピースを集めてみることにしたというのだ。著者より10歳近く年上の私としては、興味深々だった。 まず「上質な食いしん坊」の章をのぞいてみると、食事の準備がおっくうな時に手に取る本は、沢村貞子さんの『私の献立日記』。これを読むと、〈さあ今日も、ささやかなおそうざいを一生懸命こしらえましょう〉となるそうだ。たまの「おうち居酒屋」は、『向田邦子暮らしの愉しみ』から。「ままや」もどき。伝説の「う」の抽斗をまねて、7段になった整理棚の抽斗にインデックスもつくったという。高峰秀子流、重ね重箱づかい、大皿がデン!もいただき。宇野千代ふうの献立を、中山さん自身の母親のための献立にしたそうだ。 「おしゃれの流儀」の章では、『向田邦子おしゃれの流儀』、『高峰秀子おしゃれの流儀』を読み込んで、おしゃれは引き算かもと思ったという。でも宇野千代さんのおしゃれ論は『生きる幸福老いる幸福』を読むと、極め付きの「賑やかおしゃれのエピソード」は「似合ってる」って自分で言っちゃうこととか。白洲正子さんはつくり手に興味を持っていたとのこと。沢村貞子さんは『私のお節介談義』で、「どうしても洋服だと三文さがるね」と。結局、その服によってその日を楽しめれば、自然に似合ったことになると、中山さんは結論付けている。 「愛用品にときめく」の章では、中山さんの仕事机の上のいくつかの文鎮は、間違いなく高峰秀子さんのエッセイ「文鎮」そのものだそうだ。「旅先で買うお土産は箸置き限定」にしたのも彼女の影響。『白洲正子”本物”の生活』には「私はただ鑑賞するなんていや、触りたい」との一文があるとおり、中山さんは本物とは自分が触れて愛しめるものをさすのだろうと言う。『宇野千代 女の一生』に写真が載っているが、4Bと6Bの鉛筆こそが、彼女の究極の愛用品だったのではないか。中山さんは、どの達人も、その人らしいこだわりと潔さのふたつを持って、ものと真剣につきあう姿勢を教えてくれたように思うそうだ。 このエッセイは、旅のこと、お宅拝見、沁みる言葉とまだまだ続くが、中山さんは「終わりに」で、「いくつになっても、何があっても、愉しいことは見つかる、大好きなように生きればいい」と結んでいる。私も、年を重ねても、年金生活でも、ただいま現在、身の丈に合った「おしゃれ生活」を実践中。愉しいことをもう少しだけ続けたいから。