マンションの副理事になって
2022年1月05日 [ No.107 ]
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副理事といっても偉くなったわけではない。全戸数十二戸という超小規模マンションだから、輪番制で数年に一回は回って来る。今期第三十期の理事長は四十代の男性。昼間はいないから、日常的なこまごまとした問題は家にいる私のところへ持ち込まれる。管理人はいないマンションだ。暗くなってもエントランスの電灯が点かないので点灯時間を早めてほしい、無人の管理室の電話が鳴り続けている、駐車禁止の看板がはがれているといった具合に。早速管理会社に連絡して、対処してもらう。連絡はすべてメールだから、あて先は管理会社の担当者、理事長連名にして送信するだけだ。 担当期間は一年。六月からだったから、もう半年以上たった。六月に総会が開かれて役職が決まり、それから二、三回理事会が開かれ、諸問題を管理会社と討議している。 私がこの荻窪のマンションへ引っ越してきたのは、1994年3月2日。二十七年前だ。新築時からマークしていたが、ちょうどバブル期、自分が住んでいた代々木の古いマンションを売却しても手が届かなかった。 代々木のマンションから移りたかった理由はただ一つ、古くて耐震性に不安があったからだ。それ以外は立地も、日当たりもよく、静かで不満はなかった。同様な条件の、新しい耐震構造の新築マンションに買い換えたいと不動産屋に言ったら、「それは無理でしょう。三高の結婚相手が見つからないのと同じ。何かをあきらめなければ」と諭された。 でもある日、私が購入できなかった荻窪の新築マンションのその部屋が中古で売りに出ていると知らされた。バブルがはじけ、最初の住人がローンを払いきれず、値段を一千万円も下げて売りに出したのである。それで私も自分のマンションの価格を下げたら、たちまち買い手がつき、それを頭金にしてローンを組み、ようやく手に入れたのである。設計、施工とも大手の会社で安心だったが、超小規模というのが気になった。でもそのくらい我慢しなければ、希望のマンションは一生手に入らないだろうと、決意した。超小規模だと、管理費や修繕積立金が割高になるうえ、人付き合いが難しいだろうと思った。でも住民は都会暮らしに慣れている人ばかりで、必要以外は他人の暮らしに立ち入らない。入居以来、人間関係でトラブったことは一度もない。 新築マンションでも、入居した時点から「中古マンション」になる。第三十期の理事会の課題は、このマンションの大規模修繕の前年にあたるということだ。大規模修繕の当年でなくて良かったと思ったのは、甘かった。着工時こそ三十一期の理事会の役目だが、今期に色々調査と準備を進めなければ、着工には至らない。私も気持ちを引き締めざるをえなかった。 このマンションの大規模修繕は、二回目になる。大規模修繕とは、マンションの外壁に足場を掛けて、外壁タイル面の修繕や、塗装面の修繕塗り替えをする。バルコニーや屋上の防水層は、漏水しないよう更新する。また外壁目地やサッシ周りのシーリングの打ち換え、鉄製品などの防錆処理、塗り直しを行うなどの工事をすることだ。 一回目の時は、足場を朝から晩まで工事人が出入りするので驚いた。いつも誰かが窓の外にいるから、家の中にいても落ち着かない。おちおち食事も仕事もできない。寝てもいられない。そう言う状態が四ヶ月続いた。二回目のほうがマンションが傷んでいるはずだから、もっと時間がかかるかもしれない。 今回は、まず管理会社が綿密にマンションの調査をし、写真も撮り、臨時総会を開いて住民に実情の報告が行われた。各戸にアンケート用紙が配られた。各々床や排水溝、外壁、手すり、天井、窓サッシをチェックし、申告するのだ。こうした綿密な調査のあと、工事範囲が選定され、工事金額が確定し、業者と請負契約を結び、二〇二二年九月に工事に着工という流れになる。その間に、理事長、副理事も、第三十一期の人と交代することになる。今回こうして大規模修繕工事が実施されれば、このマンションの劣化が急速に進むことはなく、いままでどおり住み続けていくことができるだろう。 戸建ての場合、これらすべてを自分で進行しなければならないから、もっとたいへんかもしれない。 今私が一番に気にしているのは、外部階段の滑り止めの劣化や破損だ。このところ全国的に頻繁に地震が発生している。地震の規模にもよるがエレベーターが停まる。その場合、住民はこの階段を利用せざるを得ないが、電気が止まったり、火災でも発生すれば大事だ。事故にもつながりかねない。 私としては、大規模修繕の前でも一日も早く外部階段の修理を実施してほしいと提案している。今、見積もりと工事時期の検討をしてもらっているが、副理事をしている間に一つでも皆の役に立つ仕事できればと思う。地震列島に住む我々としてはいつ大地震に見舞われるかもしれないのだから。