宅配弁当のモニターを頼まれて
2021年01月05日
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隣人が、健康弁当の宅配の仕事をしているが、昨年その試食モニターを頼まれた。栄養バランスが良く、カロリーも低いという弁当だ。月曜日から金曜日まで、週五日、夕食のおかずだけ、期間は一ケ月、という。どんなものかと、気軽に引き受けてみた。 夕方六時になると、玄関ドア前に、保冷剤付きの弁当がバッグのまま届く。それをプラスチック容器ごと、電子レンジで一分あたためるだけ。メニューは肉か魚の主菜に、野菜中心の副菜が三品ついて、五百円。 弁当は、和食中心だが、主菜は煮物のほか、コロッケなど洋風の日もあるし、中華炒めの日もあり、バラエティーに富んでいる。副菜は、切り干し大根、きんぴら、こうやどうふなど、なじみのおかずが多い。量は多すぎず、少なすぎず、私には適量。材料は細かく切ってあるので、包丁を入れる必要はない。味はあまり期待しなかったが、薄味で、思いのほかおいしかった。 私は、それに味噌汁やおすましなどの汁もの、メニューにはないグリーンサラダ、酢の物、フルーツなどを折々プラスして、ご飯とともにいただいた。 現役時代、私は、会社の食堂で賄の人が作る食事に慣れていた。賄が廃止され、業者が入ったが、内容が変わったとはいえ、それを食べていた。社員食堂がなくなると、昼食は手作り弁当、夕食は会社近辺の店で適当に食べていた。 だから、宅配弁当にもすんなり溶け込めるのではないかと思った。朝、昼は簡単に自分で作るとして、手間のかかる夕食が届くのだ。このコロナ時代、買い物の回数も減る。調理の手間も、あと片付けの手間もかからない。最初のうちは、メリットばかりが目についた。 しかし段々慣れるにしたがって、デメリットが気になりはじめた。大事な夕食に、食べたいものでなく、与えられたものを食べなくてはならないという点、食事の楽しみが半減してきた。むしろ、弁当が休みの土日が待ち遠しくなってきた。 思えば、食事は、メニューにも、買い物にも、調理にも、片付けにも、頭をフルに使う必要がある。食材の買い物は、地元にはスーパーも、市場も、高級食料品店もあるから、目的に合わせて店選びをする。冷蔵庫に残っているものも考え合わせ、むだのないよう買い物をする。忙しい時は、揚げ物や、刺身、寿司などを買うことも多い。時々は、手作りでないものを食べるのも、目先が変わっていい。私は、テーブルセッティングも趣味だから、料理と好きな食器とのコーディネートを考えるのも楽しみのひとつだった。 退職してからは、新婚の妻よろしく、料理本片手に、それからはネットで検索したレシピを見ながら、あれこれ作ってみていた。だんだんに慣れて、自分スタイルの食生活を楽しみながら通してきた。たまには、友人たちと外食もする。 だから、週五日とはいえ、ここで一挙にお仕着せの宅配弁当に切り替えることは抵抗がある。もしかしてボケにもつながりかねない。そこで、その辺のところを隣人に縷々説明して、約束の1カ月で中止することにした。 ただそれは、頭も体も、特に足も、元気だから言えること。そのいずれでも不自由になったら、こんな便利なものはない。たとえ1ケ月でも、その体験をさせてもらったことは、ありがたかったと思う。 年の初めに宅配弁当のことを書いたのは、私自身、いつまでも若い時と同じように元気でいられないと思ったからだ。最近、年の近い人の訃報がめっきり増えた。基本の食事作りもそうだが、家事一般も自分ではこなせない日が、そのうちくるだろう。 これからは、料理だって、手作りにこだわらず、もっと気楽に便利なものを取り入れよう。そういう目でスーパーの食品棚を見ると、主菜になるレトルト食品や、副菜になるおかず、汁物が色々並んでいる。おいしそうな季節のお弁当も揃っている。検討の余地はありそうだ。 家事だって、全部自分でやらなくてはと頑張らず、家計の許す範囲内で、プロの手も借りてみよう。今もエアコンやレンジフード、キッチン、浴室のクリーニングなどは、年に一度くらいだが、順繰りに業者に依頼している。昨年は、キッチンクリーニングを頼んだが、ガスコンロや、調理台、シンクなどのしつこい油汚れや水垢を徹底洗浄、一時間で1万1000円だった。 料理や家事にかける手間と時間を、あらゆるものの整理、処分に拍車を掛けねばならない時期も来ているのだ。新年にあたって、宅配弁当をきっかけに、そんなことを考えた。