◎ 私が本を買うのは、新聞の書籍広告か、書評を見てからというのがほとんど。書店で見かけてというのはあまりないが、この本はパッと目をひいた。「歩いて、食べる」というサブタイトルもついている。まさに建築と、グルメに興味津々のミーハーの私には、ピッタリの本だった。著者は、甲斐みのりという文筆家。私もこの道には目がないから、著者と勝負!という気負いもあった。 この『東京のおいしい名建築さんぽ』(写真①)には、東京ステーションホテルにはじまって、学士会館、山の上ホテル、江戸東京建物園、旧白洲邸武相荘まで、東京の二十五箇所が文章と写真で詳しく紹介されていた。そのうち私が行ったことのあるところは、約半分の十二箇所。一箇所一箇所の知識も到底及ばない。勝負にならなかった。この本を手に、そのうち機会があったら、知らないところを訪ねてみよう、知っているところももう一度、回ってみよう、と元気が出た。 それにこの本は、去る8月15日より、テレビドラマ化が始まっている。BSテレビ東京/毎週土曜/深夜0時、テレビ大阪/毎週土曜/深夜0時56分という深夜の時間帯だが、録画しておけばいつでも見られる。主役の池田エライザが、田口トモロヲの案内のもと、毎週1か所名建築を回り、そこでランチするのだ。ドラマ自体は面白いとは言いがたいが、わざわざ現地へ出向かなくても、映像で建物のディテールが見られ、解説を聞くことができ、ランチメニューもわかる。外出自粛のコロナ時代には、役に立つ番組といえよう。10月まで放映が続く予定だから、興味あったら覗いてみてはどうだろうか。 私が訪ねたことのあるおすすめの名建築をいくつかご紹介してみよう。最初は何といっても御茶ノ水の「山の上ホテル」(写真②)。昭和十二年に完成したアールデコ様式の瀟洒な建物。設計はウイリアム・メレル・ヴォーリズ。主婦の友社の旧社屋と同じ。昨年末、リニューアルオープンした。かつては文化人の定宿に。現役時代は食事に、お茶に、時には泊まったこともある。こぢんまりとしていて落ち着くので、今でも時々利用している。 次は、神保町の「学士会館」(写真➂)。本の街に建つ日本最古の倶楽部建築。旧館は昭和三年竣工で、設計は高橋貞太郎。内部はロマネスクやゴシックをベースにしたクラシカルスタイル。毎回、主婦の友社OB会会場に。館内のレストランは、手ごろな価格帯で誰でも利用できる。 小金井の「江戸東京たてもの園」も一見の価値あり。小金井公園内に、江戸時代から昭和中期までの三十棟の歴史的建造物を移築して、復元展示を行う野外博物館。なかでも「デ・ラランデ邸」(写真④)は、ドイツ人建築家が三階建てに増築したもので、下見板張りの外壁と、スレート葺きの屋根が特徴的。「武蔵野茶房」が入り、お茶や食事が楽しめる。 最後は、町田の旧白洲邸、武相荘(写真⑤)。白洲次郎と正子が戦時中移り住んだ元農家の住居が、記念館として公開されている。幕末~明治初期頃にできた家は、骨組みが頑丈で好きなように手を加えられる。土間を洋間に、隠居部屋を書斎に、穀物蔵を物置小屋に造り替え、木工室は今、レストランに。美食家、白洲家ゆかりの味のランチ、カフェ、ディナーを味わえる。