◎ 軽井沢病が高じて、軽井沢のタイムシェアのリゾートマンションを購入してから、もう二十一年になる。二十年契約だったが、昨年、五年延長して、再契約したのだ。 契約期間中は、夏の終わりの軽井沢を、毎年一週間だけ利用できるというシステム。それまでは、小学生時代の林間学校に始まって、テニスだ、避暑だと、その都度ペンションやホテルを予約していた。ここを購入してからは、宿探しや、早目の予約といった手間は一切、不要になった。 軽井沢駅から徒歩十分というこのリゾートマンション(写真①)は、新軽井沢の別荘地の一画にある。七十㎡ほどで、LDKと、寝室、和室、浴室、広めのバルコニーがついている。キッチンはシステムキッチンで、食洗機、洗濯機もある。トイレは二つあって、他人が泊まっても困らない。家具や電化製品付きで、テレビや、DVD、CDも聴ける。行けば、掃除が行き届いた部屋に、新しいシーツとタオルが用意されていて、帰るときはそのままでいいので、気軽だ。 以前は、別荘やリゾートマンション購入も検討してみた。でもひとり暮らしだから、使わないときのメンテナンスなど考えれば、こういうシステムは、私にはなかなか利にかなっていると思った。購入時は、二十年使いきれるかと危惧したが、気づかぬうちに年月が過ぎ、さらに延長するに至ったのだ。 軽井沢の魅力は数々あるが、一番は東京から新幹線で七十分という速さで、電車を降りれば、すがすがしい空気と、透明な光が待っているという一点に絞られよう。 毎年、同じところで飽きないかと言われるが、軽井沢には、ここならではのおいしいレストランや、新しい美術館などが次々できるので、楽しみはつきない。軽井沢を起点にすれば、追分や小諸、上田、別所温泉などへも日帰りで楽々足を延ばせる。文化人たちが、東京から軽井沢に居を移したり、別荘をもっているのもうなずけるというものだ。 上皇、上皇后様が、軽井沢のテニスコートで出会い、それからは夏を軽井沢で過ごされるのは有名な話で、私も何度か、お二人の姿を目にした(写真②)。政治家の宮澤喜一さんの別荘は、マンションの近くにあったし、国際的に活躍された緒方貞子さんもホテルのレストランでお見受けした。 また画家の脇田和夫妻にはご自宅のアトリエで、作家の森瑤子夫妻にはテニスコートで、内田康夫夫妻には夜の音楽会で、そしてあの藤田宜永、小池真理子夫妻には夏のトークショウ(写真➂)で初めてお目にかかった。玉村豊雄さん(写真④)の東御市のヴィラデスト・ガーデンには、しなの鉄道に乗ってお訪ねした。いずれもひと夏の、ほんの短い出会いだが、軽井沢ならではの出来事といえよう。宮澤さん、緒方さん、脇田さん、森さん、内田さん、藤田さんまでも亡くなってしまったけれど。 二十年続けて滞在していれば、それ以外にもいろいろなことがあった。毎年、大学時代のクラスメートたちをマンションに招いて、軽井沢ライフを共に楽しんでいたが、その一人、中山幸子さんが二年前に亡くなったのも、心傷む思い出だ(写真⑤)。 この夏は思いがけないコロナ禍で、自粛が叫ばれていたが、私は思い切って軽井沢への短い旅を決行した。町は例年になく人が少なく、かえってゆっくり、なじみの店で食事をしたり、お茶を飲んだり、美術館を訪ねることができた。いつもの夏の賑わいは懐かしいが、こんな静かな夏も悪くないと思ったりした。