◎ 私は、「童子」という俳句結社に所属している。主宰の辻桃子さんは、「俳句って、たのしい!」というスローガンのもとに、「童子」を立ち上げた方だ。私も大賛成。とは言っても、私は定年後初めて俳句の世界に足を踏み入れたので、いまだに苦吟することも少なくない。 でも吟行は文句なく楽しい。吟行とは、俳句を作るため、俳句仲間であちこちへ出かけるのだが、観光旅行ではない。歴史ある神社に詣でたり、文士の旧居を訪ねたり、名園を散策したりする地味な半日の旅だ。 去年の一月は谷保天満宮へ探梅、二月は、梅香る林芙美子記念館、三月は日本民芸館の柳宗悦「美を見出す力展」、四月はつつじの名所、根津神社、五月は新緑の牧野記念庭園、六月は太宰忌の三鷹の禅林寺、七月は水天宮および甘酒横丁、八月は新涼の一橋大学、九月は秋草の日比谷公園、十月は小鳥来る洗足池周辺、十一月は木の実降る肥後細川庭園、十二月は紅葉名残の六義園という具合で、四季折々の情趣を味わいながらの吟行をした。 ところが、お正月に風邪をひき、句座始めの吟行を欠席。それから新型コロナウイルスがじわじわひろがって、とうとう今年は一度も仲間との吟行には行けなくなった。 四月、緊急事態宣言が発令され、ステイホームが叫ばれたとき、思いついたのは近所の一人吟行だった。徒歩圏内には、幸い角川庭園、大田黒公園、荻外荘公園、与謝野公園など、かつての文化人の旧居跡の公園が散在。今までも時折りは訪ねてはいたが、今回は日課のように足を運んだ。開園時間に行くと、ほとんど誰もいないので、名園を独り占めできる。マスクをはずし、空気を胸いっぱい吸い込み、花や緑を眺め、写真を撮り、そしてベンチで俳句を詠む。ぜいたくな一人吟行だ。 特に、かつて展示室でPHOTO俳句展をやった角川庭園(写真1)は、飽きることがない。生前、角川源義が力を入れた庭には、季節の移ろいに合わせて、句材になる草花や、木の花が咲き、鳥が囀り、風が渡る。句作りには事欠かない庭だ。 また大田黒公園(写真2)は、音楽評論家、大田黒元雄の旧居。大木が茂り、珍しい庭木があり、錦鯉が泳ぐ大きな池がある。記念館もある。荻外荘公園(写真3)は、近衛文麿の旧居で、住居は修復中だが、広い芝生の庭がある。与謝野公園(写真4)は、鉄幹、晶子の旧宅跡で、歌碑が点在する広い庭がある。これらも回っていると、四季折々の風情があり、発見があるから、興味は尽きない。 一人吟行はマイペースでできるし、運動不足解消にも役立つ。これからは熱中症対策もしなければならないが、もうやめられなくなった。 以前は、万歩計の数字を延ばすことだけを目的に歩いていたこともあったが、すぐ挫折した。今は俳句を作ったり、写真を撮ったりしていると、5千歩,8千歩、1万歩も、苦も無く歩けてしまう。歩くことは、とにかく頭にも体にもいい、一番簡単な健康法とも言えるだろう。 長引くコロナの影響で、仲間との吟行はいつ復活できるか、見通しが立たないが、これからも体力が許す限り、一人吟行を続けていきたいと思っている。すべて俳句にも、HPにも、FBにもつながる。さらに小説の舞台にもなるのだから。