堂場瞬一の「アナザーフェイス」シリーズが、完結!
2018年09月05日
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私は、子供のころから、読書好きだった。実生活が平凡だったせいか、本の中の自分の知らない世界で遊ぶのが楽しかった。世界名作全集を皮きりに、恋愛小説からミステリーまで手あたり次第、読み耽った。そして、自分で下手な小説を書くまでになってしまった。 堂場瞬一の「アナザーフェイス」シリーズは、友人に勧められて読み始めた本だが、シングルファーザーの刑事、大友鉄のキャラクターが、ほかの警察ものとは大きく違っていて、感激。次作が出るのが待ち遠しくなった。 堂場瞬一は、1963年生まれ。今、55歳だ。大学卒業後、読売新聞に入社、社会部記者を勤める傍ら小説を書き出し、2000年に小説スバル新人賞受賞。2012年に新聞社を退社し、警察もの、スポーツものの分野で活躍中だ。新聞記者出身ということもあって、1か月で1000枚以上の原稿を書いたこともあるとか。驚くべき速筆だ。といっても作品を読むと、一行一行磨かれた文章、緻密な構成で、書き飛ばしている気配は皆無だ。 堂場瞬一の警察小説は、何作もシリーズ化され、テレビドラマ化もされているが、この「アナザーフェイス」シリーズは、2010年から文春文庫より書き下ろしで刊行され、この3月、9冊目の「闇の叫び」で完結の運びとなった。 主人公の大友鉄は、元捜査一課の敏腕刑事。交通事故で妻を失い、残された息子、優斗の育児と仕事を両立させるため、捜査一課から刑事総務課に異動させてもらった。ただ刑事としての能力を惜しまれ、時々上司の命令で特捜本部に加わり、鮮やかに事件を解決していくというのが、大筋のストーリーだ。 1作目の「アナザーフェイス」は、銀行員の息子の誘拐で始まるが、父親でなくてはわからぬ感を働かせて事件を解決。その晩、妻の母親、聖子の元へ、シュークリームの箱を揺らさぬように気をつけながら、小学2年の優斗を迎えに行くところで終る。この終わり方に、すっかり心を奪われた。 2作目の「敗者の嘘」は、強盗放火殺人の容疑者の自殺。3作目の「第四の壁」は劇団の主宰が舞台上で絶命。4作目の「消失者」は、老練のスリの逮捕。5作目の「凍る炎」は、燃える水を巡る連続殺人事件。6作目の「高速の罠」は、息子優斗の誘拐事件。7作目の「愚者の連鎖」は、完全黙秘を続ける連続窃盗犯の取り調べ。8作目の「潜る女」は、結婚詐欺事件だが、その裏に潜む複雑な事情を解き明かす。ほかに、「親子の肖像」という若き日の大友鉄の活躍を描く、珠玉の6編もある。 そして9作目の「闇の叫び」は、息子のかつての同級生の母親からの通報で、連続殺人犯の究明に走る。ここでは優斗はもう中学3年生。大友の郷里、長野の全寮制の高校受験を目指している。息子との別れの日が近づいているのだ。優斗は自分のせいで、大友が好きな仕事ができなかったのではないかと気づかうが、「僕にとってはいつでも家族が第一で、仕事が二の次なんだから」と断言する。優斗には「心配なのは、父さんが基本的にだらしないことなんだよね。僕がいなかったら、家なんかゴミ置き場みたいになって、外食ばかりでさ」とまで言われる。最後、大友は自室に入り、妻、菜穂の写真を入れた写真立てをみがく。それだけが亡き妻と触れ合う唯一の方法だと思いながら。警察小説とは思えない素敵なラストシーンだ。 ミステリーや刑事ものが好きな男性には、甘いと言われそうだが、私はその甘さが気に入っている。9作目で、息子も育って完結というのもわかるが、私は大友と同じく、優斗にも、このシリーズにも心が残り、一抹の寂しさを感じる。