あわや! 新手のオレオレ詐欺に遭いかけて
2018年07月05日
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金曜日の午後、家でパソコンに向かっていたときだった。固定電話が鳴る。ナンバーディスプレイの電話だが、非通知の文字。以前、無視したら、応募原稿当選のお知らせだったことがあったから、とりあえず受話器をとる。 「新宿Iデパートのお客様センターの安田です」と男の声。そこは行きつけのデパートだ。 男は、私のフルネームを聞いたうえで、店に私の名前のカード持参の女性客が来て、百万円ほどの洋服の買い物をした。店員が本人確認を申し出ると、トイレへ行くといって姿を消した。「偽造カードだと思うので、すぐ新宿警察と全国銀行協会に連絡して、被害が広がらないよう手続きを取りました。まもなく、両者から電話が行きますので、それぞれの指示に対応してください」という。 その不審な女がそのカードで次々買い物をしたらたいへんだと、私は青くなった。まず、全国銀行協会の田所という男から、電話があった。「こちらのデータでは、いまのところ、ほかで使用した形跡はありません。ただ今後使用する可能性があります。まずあなたの持っているクレジットカードの種類と、取引銀行の名前を教えて下さい」という。 さらに、「それぞれの銀行通帳の最終の残高はどのくらいありますか。まずその金額が減っていないか、各銀行に問い合わせてみましょう」と言う。私は、不覚にも素直に答えてしまった。そこで電話が切れた。 すぐ今度は、新宿警察の捜査二課の川上という男から、電話があった。「デパートと、全国銀行協会から連絡がありました。警察としては、デパートの防犯カメラを調べ、署のものを新宿駅近辺に配置して、その女を探しています」と、いかにも頼もしい警察らしい対応だ。またデパートの安田から、「色々、ご心配をおかけします。どうぞ今後とも、当店をごひいきにおねがいします」という電話も入った。私は、そこまではこの話を、疑いもしなかった。 続いてまた、全国銀行協会の田所から、電話が入った。「安全のため、銀行カードの暗証番号を変更したほうがいいでしょう。住所を教えてください。うちの協会の職員がお宅に伺うので、今お持ちの銀行カードを預けてほしい。新しいカードは、こちらからお宅に郵便書留で送ります。その間、通帳と印鑑があれば、自分でお金を引き出すことはできます」という。不審な女に気をとられていたぼんやりの私も、そこで、はじめて 彼らの言動に疑問を抱いた。 三人の中で信用できるのは、まず警察だ。私は、自分から新宿警察の川上が伝えた、末尾に110がついている電話番号にかけたが、ずっと話中。いよいよ不信感が募って、104で、新宿警察の代表番号を訊いて電話したら、「捜査二課も川上も存在しない。生活安全課につなぎます」とのこと。そこで、これはまちがいなく詐欺だから、すぐ一一〇番で地元の警察に通報してください」との指示を受けた。地元の警察は、すぐ家へ来るといってくれた。 警察を待つ間、デパートの代表番号にも電話したら、お客様センターも安田も存在せず、そんな事件はなく、ここでも詐欺だということが判明した。 地元の警察から、二名が到着。私は、警察手帳やメダルで、ホンモノと確認してから、家へ入ってもらった。彼らにことの経緯を説明し、全国銀行協会からカードを取りに来るという職員を三人で待った。その男が、カードを受け取れば、直ちに逮捕するという。だが、私がニセの新宿警察に電話した時点で、彼らも気付かれたことに気付いて、魔の手を引いてしまったのだろう。もう電話もなく、姿も見せなかった。 まさか私が、こんな手の混んだ新手の詐欺に巻き込まれるとは、思いもしなかった。架空の不審な女に気をとられているうちに、わずかではあるが私の全財産を、まるごと失うことになったかもしれないと思ったら、息が止まった。 冷静に考えれば、カードには使用限度額があるから、百万円もの買い物ができるはずはないし、偽造カードと分かった時点で、ストップをかけることもできる。最初のデパートからというニセ電話で、この話は詐欺と気付くべきだったのだ。 警察によれば、犯人グループは、単純なオレオレ詐欺のようなものからはもう手を引いて、今回のようなより手の込んだ詐欺を、次々考え出してくるらしい。それも、私のような「オバアサン」をターゲットしているという。「今回はカードを奪われる寸前に気付いたのが、幸いでした。今後は、不審な電話があったら、まず110番してください」といって、警察は帰って行った。 すぐネットで「オレオレ詐欺の現状」を検索してみたら、今や「劇団並み」の演技力と組織力が備わった詐欺グループが多数存在していて、電話口では判断できないのが当たり前のレベルなのだそうだ。対策としては、最近は迷惑防止機能がついた家庭用電話が出ているので、登録していない番号からの電話には出ない、出ても自動で録音してくれる電話機に変更することも一法とあった。 翌日、さっそく量販店に行ってみたら、電話機売り場は、迷惑防止機能搭載という電話ばかり。それほど、オレオレ詐欺が、横行しているということなのだろう。私も、今後のことを考え、早速かけてきた相手に、通話を録音すると伝える録音機能付き電話機に買い替えた。 私はしっかり者に見えるかもしれないが、前のマンションでは空き巣に入られ、パリではヒッピーに囲まれ、香港では財布をすられ、昨年はスマホでなりすまし詐欺にも遭いかけた。幸いいずれも大事には至らなかったが、これで終るとはとうてい思えない。自分を守るためには、年をとってもぼけてなんかいられないのだ。詐欺電話は、固定電話だけでなく、携帯にもかけてくるという。皆様もくれぐれもご注意いただきたい。