私のマンション理事長顛末記
2018年06月05日
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このマンションを購入して、早いもので、二十四年になる。昨年六月のマンションの総会で、私が管理組合の理事長に任命された。組合員が一年交代で、理事長、副理事長、監事役を、担当するのだ。このマンションは、総戸数十二戸という超小規模なので、以前、副理事長をしたことがあったが、その間、何のトラブルもなかった。今回も何事もなくすむと思った。ところがそれは、大きな誤算だった。以前は、このマンションの元地権者のご夫婦が、ずっと理事長を引き受けてくれ、「私のマンション」感覚で、掃除からメンテナンスまで、何もかも一手に目配りしてくれていた。だから、雑事が副理事長まで、回ってくることがなかったのだ。ご夫妻は、高齢だったので、お二人とも亡くなった。以来、マンションに何か起きると、すべて理事長の責任で、解決しなければならなくなったのだ。 管理は管理会社に委託しているが、小さいマンションだから、管理人常駐ではない。巡回というシステムだ。清掃員が週五日、朝二時間だけ通って来る。従って、何があっても、まず理事長に話がくる。例えば、玄関のガラス戸にヒビが入っても、、エレベーターに不審音が生じても、水の出が悪くなっても、住人から、電話や立ち話で連絡がくる。それを、管理会社の担当に伝えて対処してもらうのだ。理事長といっても、マンショントラブル処理係というわけだ。 始めは、管理会社の担当と、電話連絡し合っていたが、いちいちそんなことをしていては、自分の外出もままならない。しかも管理会社は、火曜日、水曜日は休みだ。それで、すべてメール連絡することにしたら、かなりスムーズに事が運んだ。でも担当者が新人で、対応がスローモー。だから現役時代、社の新人に言っていたように、「ホウレンソウ」(報告、連絡、相談)を徹底指導したら、問題解決がスピードアップした。私は、いつまでたっても、新人教育係だと、苦笑してしまった。 この一年間で起きた大きな問題は、永年、空き地だった隣地に、五階建ての賃貸マンションが建ったことだ。まず、隣地の不動産会社、建築業者、管理会社、私の立ち合いで、隣地との境界石の確認から,境界壁の修理まで話し合いが行われた。工事が始まったら、水道本管の損傷など、想定外のトラブルも起きた。水道局の人がその報告に駆けつける。私は、漏水でこのマンションが水浸しになったらどうしようと、パニックになったが、なんとか水道局が対処してくれた。 また一本の鍵が、ゴミ置き場の外に落ちていたこともある。以前、鍵を紛失した人がいて、マンションの鍵をすべて交換したことがあった。お金もかかった。もう遅い時間だったが、管理会社の緊急連絡先にすぐ電話した。管理会社から、清掃会社へと電話が回って、まもなく清掃会社の人が飛んできた。その鍵が、清掃会社が預かっていたこのマンションのマスターキーとわかって、その人は「平身低頭」を絵に描いたような、体を直角に折るほどのお辞儀をして帰って行った。 そうしたトラブルは、数え上げればきりなく起きた。でも、いずれも大事にならず、私の理事長任期もこの六月で終わる。おかげでこのマンションの全貌も見えてきた。 入居当時は、現役だった住人も、私同様、職を退き、年を取って来た。マンションも築二十六年と老朽化が進んでいる。一回目の大規模修繕は終了しているが、まもなく二回目が控えている。修繕積立費も不足してくるだろう。でも住み替えは多分みんな考えていない。自分たちの年と、マンションの老朽化とを重ね合わせ、ある意味、運命共同体と思っている。そう考えると、この一年の理事長経験は、貴重なものだと思った。