わが家を十倍も百倍も広く住む法
2018年05月05日
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今回は、住まいの整理収納や、ゴミ捨ての話ではない。わずか54㎡、1LDKのわがマンションを、びっくりするほど広く住まう法を、明かしてみたい。 現役時代は、青山あたりのもっと広いスペースのマンションに、住み替えたいと夢見ていたけれど、大病で気力もお金もなくしてやむなく断念。定年後は、ここ荻窪を終の住みかにしようと、気持ちを切り替えた。 最初に手を付けたのは、ベランダを部屋にする法。エアコンの室外機が置いてあるので、洗濯物の乾燥室にはなっても、不毛地帯。鉢物だって育たない。だからあくまで季節限定だけれど、床にはウッドタイルを敷き、折り畳み式のテーブルと椅子を置いて、お茶を飲んだり、本を読んだり。遠くの林を眺めながら、ちょっとしたカフェテラス気分を楽しんでいた。 でもそれでは、物足りなくなってきた。そこから望める公園を、自分の庭にしてしまおうという、画期的なプランを思いついたのだ。荻窪には、わが家の徒歩圏に素晴らしい公園が三つもある。すべて無料だ。 まず南へ五分歩けば、敷地三千坪に近い「大田黒公園」がある。音楽評論家大田黒元雄氏の屋敷跡を、杉並区が日本庭園として整備し、開園したもの。園内には、樹齢百年を超える銀杏並木を始め、池の周囲には欅や赤松などの巨木が茂っている。同氏のアトリエを改装した記念館も保存されている。お茶会、コンサートをはじめ、七夕や、紅葉狩りなどの年中行事も行われる。自然を満喫しながら、ゆっくり散策したり、写真を撮ったり。四阿や休憩室で一休みして、読書を楽しむこともできる。 そこからさらに五分歩くと、「角川庭園」がある。ここは角川書店の創業者で、俳人の角川源義氏の旧邸宅を、杉並区が改修、区立公園として開園したもの。数寄屋造の建物は、加倉井昭夫氏設計で、国の登録有形文化財。詩歌館として、句会や歌会も。庭園は源義氏の意を受け継ぎ、約八十種、五百五十本の樹木をはじめ、俳句に相応しい自然のままの花や草木を、四季折々楽しむことができる。ここ訪ねると、俳句の句材には事欠かない。私にはなんとも貴重なお庭である。 今度はわが家から、東へ五分歩くと、「読書の森公園」がある。杉並区立中央図書館に隣接していて、各所にベンチが置かれ、木陰で読書できる公園だ。晴れた日は、私もよくここで本を読む。 隣にあるのは杉並中央図書館。ガラス張りの地上二階、地下一階の建物だ。蔵書数八十一万二千冊という、都内最大級の公立図書館だ。私はここで、書籍、雑誌はほとんど借りて読む。集中して読みたいときは、ここで読み切ってしまうこともある。だから、わが家自慢の「書斎」とも言える。 最後に、わが家の道路を隔てた真ん前には、長屋門がある。第十一代将軍家斉が寛政年間に鷹狩の際、作らせた門とか。今はAMEXの敷地内にあるが、来客時には、この門を目印に来ていただいている。 というわけで、自分勝手に考えれば、わがマンションは、三つの庭と書斎と門まである、広大な住まいということになる。ぜひ一度、遊びにいらしていただきたい。