ランチは、昼ドラマ「やすらぎの郷」を見ながら
2017年06月05日
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うちにいる時のランチタイムは、だいたい十二時から一時くらい。調理時間は、約十五分。パスタか焼きそばかパンのくりかえし。必ず、サラダとフルーツと、スイーツつき。慣れているから、近所のカフェのランチメニューなどより、美味しく作れるし、栄養バランスもいいはずだ。 食事時間は、いつもの習慣でテレビをつける。朝は、NHKのニュースと朝ドラ、昼はニュースと、面白そうなら、テレビ朝日の「徹子の部屋」、続けてニューススクランブルを途中まで。それが最近、昼は、同じチャンネルの倉本聰脚本の「やすらぎの郷」を見ながら、中島みゆきが歌う「慕情」というテーマ曲を聴きながら、というように変わった。 このドラマは、テレビ朝日が、中高年世代をターゲットにして新たに創設した昼の「帯ドラマ劇場」第一弾。二クールで、九月まで続く。脚本家・倉本聰が「大人が見るドラマが少ない」として自らテレビ朝日に企画を提案し、実現した作品だ。 倉本聰の旗振りとあって、狂言回しの脚本家役の石坂浩二をはじめ、女優陣は浅丘ルリ子、加賀まりこ、有馬稲子、野際陽子、五月みどり、加えて八千草薫など、男優陣は、山本圭、ミッキーカーチス、藤竜也など、昭和を代表とする豪華スターの共演とあって、シニア世代の私達には、興味深い。時折、彼らの若い頃の写真も挿入されるので、いっしょに年を重ねて来た身には、痛々しさえ感じる。だが、さすが往年の大スター達、実年齢には見えない磨きのかかった美しさで、懸命に役を演じきっている。週刊誌には、俳優陣が高齢とあって、台詞を忘れた、疲労で倒れたなどという記事も書かれているが、ともかくもそれらを克服してドラマは続いている。 「やすらぎの郷」とは、東京近郊の海岸沿いに存在する架空の老人ホーム。かつての芸能プロダクションのドンと呼ばれた男が、給料や年金といった安定した的な収入を持たず、人気が去り仕事もなくなって苦労しているフリーの芸能界の人々に、過去の活躍に報いるための場所として作り上げた、老人ホームという設定だ。敷地は広く、施設内には、コテージやレストラン、スポーツジム、温泉、映写室、バーなどがあり、医療設備やスタッフもそろっている。 入居は、施設を運営する「やすらぎ財団」の審査を通過した人間に、財団側から入居を勧誘するというスタイルで、入居金はもちろん、一旦入居が許可されれば、食費や光熱費などを負担する必要はない。その一方、入居は、業界からの引退ではなく、希望すれば仕事をつづけることもできるという、まさに至れり尽くせり、夢のようなところである。出版界でも、どこからかドンが出現して、そんな施設を作ってくれればうれしいが、不況が続くこの業界では、ありえない話だ。 「やすらぎの郷」でも、事件は起きる。みんな若い頃の写真を持ち寄って、往時の恋の秘密を暴露し合ったり、人気女優役の浅丘ルリ子の貯金が底をついたり、九十代の大女優役の八千草薫が認知症を心配したりと、話は尽きない。スターたちのドラマでありながら、私達シニア世代が身に詰まされる物語が展開されるから、他人ごととしては見ていられない。 倉本聰は、その昔、ドラマ「北の国」からで、私達を十分楽しませてくれた。八十二歳となった今、まさに自分の問題として、このテーマと取り組んでいるのだろう。私自身は、若い頃、トレンディドラマにのめり込んだような熱意は消えたが、残る三カ月の展開を、静かに見守りたいと思っている。 自分の「やすらぎの郷」はどこかにあるのだろうか。家で最後までと思っているが、頭と体の健康がいつまで続くかだ。