私のもの忘れ防止対策
2017年05月05日
◎
朝ベッドから出ると、私はまずパソコンを立ち上げる。メールを見たり、フェイスブックをチェックするためだ。それには、電源をオンにした後、いくつかの手順を踏んで、パスワードを入れなければならない。まちがえることはあっても、いまのところ、わからなくなったことはない。私はこれを認知症に差し掛かったかどうかのバロメーターにしている。2025年には、国民の九人に一人が認知症になると、テレビが報じていた。 一人暮らしだから、誰も「へんね」と気付いてくれたり、「へんだわ」と、教えてくれる人はいない。一挙に認知症になることはないと思うから、兆しがあらわれたら、すぐ医者に走ったり、施設に入る準備をしなければと思っている。 若年性認知症にかかった男のことを書いた荻原浩の小説「明日の記憶」の映画では、主人公を演じた渡辺謙が、初期の頃、スーツにメモ用紙を何枚もぶら下げていた。 認知症ではないが、記憶が八十分しか持たない男を書いた小川洋子の小説「博士の愛した数式」の映画でも、主人公の寺尾聡がスーツにメモ用紙をベタベタ貼り付けていた。映画ではオーバーに演じているのだろうが、いずれも決して笑うことはできない。 私も若い頃と比べれば、よくもの忘れをするようになった。作家や俳優の名前を思い出せなかったり、買うものを失念したり、図書館で同じ本を二度借りてしまったり。 だからこれらの映画ではないが、その月、締め切りのあるものは、ポストイットに記入して、パソコンデスクの端に貼っている。済んだものは、線を引いて消していく。思えば現役時代だって、やるべきことは、同じようにメモに書き出してパソコンに貼っていたから、効果のある対策だ。今はメモ用紙の代わりに、正方形のポストイットを多用。他人が見ても、それと分からないように、スマートに。 長期の予定は、システム手帳に記入して、これもデスク周りに置いて毎日見る。まず毎月の通院日から、句会や吟行の日程、小説の講義日、美容院、食事会など、忘れてはいけないことばかり。手帳にはほかの重要な記録も記入してあるから、持ち出したくない。その月と翌月分のページコピーをバッグに入れている。壁掛けカレンダーに書き出しておく人もいるようだが、人目につくし、インテリアとしてもいただけない。 玄関ドアの内側も、大切な掲示板。ここには、マンションの各種点検のお知らせ、近所のショップのセールの案内などを、見苦しくならないようレイアウトして、マグネットで止めている。私は、セコムの見守りサービスにも加入している。十二時間、私に動きがないと、セコムの人がかけつけてくれるというシステムだが、長時間の外出や旅行の時は、前もって知らせる必要がある。そのチェックも、ドアに貼っている。 また買わなければならないものは、食品にしろ、調味料にしろ、洗剤などの雑貨にしろ、気付くたびに、スマートフォンのメモ欄に記入していく。店で、スマホを開けば、買い忘れることはない。 そして何よりの頼りは、パソコンのインターネット検索。もちろん知らないこと、わからないことを検索するのが主目的だが、最近は思い出せないことを、思い出す手掛かりにもしている。そのことの周辺の言葉をいくつか検索欄に入れれば、ほとんどの問題が解決するからありがたい。 今のところ、ポストイット、システム手帳、スマ―トフォン、パソコンなどが、私のもの忘れ防止のかけがえのないサポーター。できるだけこの体制で、もうしばらくは、人生を乗り切りたいものだ。