「現在進行形の女」をめざして
2016年11月05日
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この十月、一歳、年をとった。八十歳まではまだ遠いような気がするから、自分ではそんなに切羽詰まった気はしない。定年になったから、還暦を迎えたから、古希がきたからと、急に老け込んだり、あきらめの境地になって、立ち止まってしまう人もいる。でも私は、第二の人生まだ半ばと思うから、もうしばらくは前向きに歩きたいと考えている。 定期券もなく、必ず終点がくる人生。先達は、どのように考え、いかにして生きているのか。その手の本は、目に付くと、つい手が出てしまう。今年になってからでも、「おひとりさまの最期」(上野千鶴子)、「100歳の幸福論」(笹本恒子)、「我が家の内輪話」(三浦朱門・曽野綾子)、週末介護(岸本葉子)、「92歳まだまだやりたいことばかり」(近藤富枝)、「老いへの『けじめ』」(斎藤茂太)などなど。どの本も、老い支度、死に支度に役立つ、知恵がたくさん詰まっていた。 そんな時ふと目についたのが、「現在進行形の男」(藤竜也・宝島社)。あの俳優、藤竜也の著書で、一年前に出た本だ。 藤竜也は、1941年生まれで、現在75歳。1973年、テレビドラマ「時間ですよ」でスナックの片隅に座る謎の男を演じてブレイク。1976年、映画「愛のコリーダ」で一躍スターになる。この映画は、実際に起こった「阿部定事件」を 大島渚監督が映画化したもので、一大センセーショナルを巻き起こした。私は見ていないが、それ以降、ヤクザ役や悪役で見せる、男くささが気になる俳優だった。 ところがこの夏、「はじめまして、愛しています」というホームドラマに、尾野真千子の父親役として久し振りに登場。びっくりした。このオジイサンが、あのあの藤竜也かと。年をとるのは仕方ないとしても、あんまりだと。わざと老け役を演じているのかとも思った。 そして、彼が「現在進行形の男」という本を書いたと知って、早速読んでみた。まず書名が、気に入った。表紙から、裏表紙まで、75歳の藤竜也の写真が度々登場する。若き日の面影は垣間見えるが、やっぱりオジイサンだ。 内容は、1夢中になり楽しむこと。それは忘れてないです。2俳優ってのはラクな商売です。3これからのこと少し考えてみますか…の、三部構成。いずれも、肩に力を入れず、お説教臭さは皆無で、すらすらと書かれている。 新聞取材でも、「過去は振り返らないのがしなやかに生きるこつかもしれませんね。大事なのは今と明日ですから。日々の営みを大切に生きる、それに尽きると思います」と語っている。 藤竜也は、悪役のイメージが強いが、それは役の上のこと、芦川いずみという清純派女優を妻にし、息子ももうけるというまっとうな人生を歩いて来た。中年には中年なりの、年をとればそれなりの役を引き受け、俳優をやって来たのだろう。この秋、「お父さんと伊藤さん」という映画では、頑固な元小学校教師のお父さんを演じているという。観に行ってみようか。 年をとることを当然のことと受け止め、無理に若作りしたりせず、彼はいつも自然体の現在進行形の男として、これからも演じ続けるのだろう。そういう意味で、70歳半ばの現在も、その年なりのダンディさを維持しているといえよう。 ほかの本のように、生きていく上での示唆に富む本ではないが、読み進めるうち、彼の、流れに身を任せながらも、決してとどまらない生き方を、身に付けられるような気がした。