玉村豊男さんの「ヴィラデスト」を訪ねて
2015年10月01日
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この夏の終わり、やっと念願の玉村豊男さんの、「ヴィラデスト」を訪ねることができた。軽井沢で数日の夏の休日を過ごして十年以上たつが、なかなか長野県東御市にあるという「ヴィラデスト」までは足が伸びなかった。玉村さんのしばらく前の著書『隠居志願』(東京書籍刊)を読んでいたら、「私たち夫婦は、あと二年したらワイナリーの経営から退いて、後事を若い後継者たちに託そうと考えている」というくだりを見つけて、「これはたいへん、早く行かなくては」と、思い立った。その二年が過ぎて、今年はもう三年目だ。玉村さんは、私より一歳お若い。私だって、いつまで気軽に旅行できるかわからないとも考えた。 遠いといっても、「ヴィラデスト」は、軽井沢駅から信濃鉄道で約四十分、田中という駅からタクシーで約十分。行ってみれば、意外に近いところにあった。 「ヴィラデスト」の正式名称は、「ヴィラデスト ガーデンファームアンドワイナリー」。雑木林に囲まれた信州の里山の一角にあるご自宅の庭先に作られている。「ヴィラデストカフェ」をはじめ、「ワイナリー」、「ガーデン」、「ギャラリー」、「ショップ」などが、そろっていた。 中でもカフェは、ワインを飲みながら、獲れたばかりの新鮮な素材を生かした料理を楽しむという、農園レストランならではの素敵なところだ。アミューズから、野菜やハーブたっぷりのオードブル、メインディシュ、デザート、お茶まで、どれも美味しかった。窓の外には、雄大な北アルプスを望める、葡萄畑や、野菜畑、広々としたナチュラルガーデンが見渡せる、まさに信州ならではの農園リゾートだ。 私達が、料理やワインを楽しんでいたら、なんと玉村さんご自身がご挨拶に見えて、きさくに写真にも入ってくださった。玉村さんは、かつてベストドレッサー賞の特別賞を受賞されたこともある。「時代を先駆けるライフスタイルである田舎暮らしの実践者」というのが受賞理由とのことだが、その日もジーンズ姿で、なかなかおしゃれだった。 食後、私達は、初秋の花々やハーブが咲き乱れるガーデンを散策した。ここならではのワインや、ジャム、ジュース、ポストカード、食器などが並ぶショップで、あれこれと買物もした。まさに記念すべき一日だった。 玉村豊男さんは、1945年10月生まれ。この秋、古希を迎える。東大仏文科を卒業し、パリに2年間留学し、文筆業へ。1977年に『パリ 旅の雑学ノート』、1980年に『料理の四面体』を刊行してエッセイストとしての地歩を築く。旅と都市、料理、食文化、田舎暮らし、ライフスタイル論など、幅広い分野で執筆を続ける。1983年より、軽井沢で生活。高校以来中断していた絵画制作も再開された。 1991年より、東御市に移住し、西洋野菜やハーブを栽培する農園「ヴィラデスト」を経営。2003年に、果実酒製造免許を取得し、2004年「ヴィラデスト ガーデンファームアンドワイナリー」をオープン。現在は「おいしい信州ふーど大使」もやっておられる。『隠居志願』は書かれたが、ほんとうの「隠居」などまだまだ遠い先の話だろう。 私も私大の仏文科出身だったから、玉村さんのエッセイに興味を持ち、『パリ 旅の雑学ノート』をはじめ、何冊も著書を愛読していた。軽井沢も好きだったから、いつかお会いしたいと思っていたのが、ようやく今年実現できたのだ。 パリには、私も若い頃何度か旅行したが、これからはもう行けるかどうか。その昔、サルトルやボーヴォワールやカミユの行きつけだったパリの「カフェ・ドゥーマゴ」を描いた玉村さんの版画を、思い切って購入してしまった。