大原麗子にはなりたくなかったから
2015年07月01日
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このところ、柳生真吾(園芸家・四十七歳・咽頭がん)、今井雅之(五十四歳・大腸がん)、今いくよ(六十七歳・胃がん)、町村信孝(七十歳・脳梗塞)など、有名人が次々、若くして亡くなっている。 でも今でも忘れられないのは、六年前、六十二歳で亡くなった女優、大原麗子のことだ。渡瀬恒彦との結婚時代に発症した運動神経が麻痺してしまうギランバレー症候群を再発し、躁うつ病にもかかり、平成二十一年八月、一人寝室で息を引き取った。死因は、不整脈による脳内出血で、死後三日経って弟によって発見されたという。あの大女優でさえ、そばで看取る人もなく、三日もマンションに放置されていたということは、同じく一人暮らしの私にはショックだった。 私は、五十八歳のときがんが見つかり、手術と抗がん剤治療をして、九死に一生をえた。その時から、「死」が身近になったが、即死ならともかく、半死半生で放置されるという状況だけは避けたいと思った。マンション暮らしには他人の生活には立ち入らないという暗黙の了解があるし、家族は呑気ものばかりだから、死後、一週間でも一カ月でもそのまま放置されるということもありうる。 早速、保健所に相談に行ったが、当時、私はまだ高齢者年齢に達していなくて、もし業者の「緊急通報システム」に加入したければ、全額自己負担するしかなかった。各種設備の設置、月々の経費などを算出すると、どの業者を選んでも年金暮らしには、かなりの負担になる。まだ大丈夫だろうと先延ばしにしているうちに、七十歳になった。 今回行ったのは、杉並区の保健所内にある地域包括支援センター(ケア24荻窪)というところ。高齢者や、その介護者を応援する相談窓口だ。最初、窓口では元気そうな私を見て、「お父様かお母様の介護相談ですか?」と声をかけられた。「私自身のことです。七十歳です」というところから、相談は始まった。 「高齢者緊急通報システム」の対象者は、区内に住む、六十五歳以上の高齢者のみの世帯で、慢性疾患(心不全、脳梗塞、脳出血など)があり、常時注意を要する方と言われた。でも診断書は不要で自己申告でいい。私は健診の結果で、降圧剤ほかの投薬を受けているので、かろうじて対象とみなされた。主治医と家族の連絡先も申告した。 利用料金は、私の年金額だと、月額なんと三百円! でも私もわずかな年金から、介護保険料、住民税を徴収されているから、それらも補助金の財源になっているのだろう。 まず区が指定する委託業者(私の場合はセコム)が自宅に来て、通報機、安心センサー、火災センサー、ペンダントなどを無料で貸与、設置してくれた。利用にあたり、自宅の鍵を、機器設置時に、委託業者に預けた。 急病時は、〈ペンダント〉を押すと、受信センターから救急車(火災の場合は消防車)の要請をするとともに、現場派遣員が駆けつけ、救助してくれることになる。 〈安心センサー〉は赤外線のセンサーで、十二時間人の動きを感知しないと自動通報してくれる。これは、トイレ近くの天井に取り付けてもらった。〈火災センサー〉は、台所と寝室に設置。煙を感知するとこれも自動通報してくれる。 外出時は、〈セット解除ボックス〉にライフカードを差し込んで引き抜くと「留守はセコムにおまかせください」、帰宅時は、同じ操作をすると「お帰りなさい」と、応答してくれる。 こうして書き出すと、とても面倒で、今でも対応できるのかなと心配になったが、実際に自分でするのは、①具合が悪くなったとき〈相談ボタン付き通話機〉を押す、②それができないときは〈ペンダント〉を握る、③外出時、帰宅時には〈セット解除ボックス〉を操作するだけ。 突然死亡したり、意識不明になって、十二時間動きがないと、〈あんしんセンサー〉が自動的に通報してくれるので、大原麗子のようなことにはならないはずだ。 自分ではまだまだ若いと錯覚していたが、私は間違いなく、「コーレイシャ」だということも、痛感させられた。 最近は地震も頻繁だし、どこでどんな災害に出会うかわからない。すべてに対処するのは不可能だが、自分でできる備えだけはしておきたい。この「高齢者緊急通報システム」は、各地方自治体によって取り組みはまちまちで、業者に「杉並区は恵まれている」と言われた。でも自分の住む地域にどんなシステムがあるか、自分のためにも、身近な高齢者のためにも、調べておくに越したことはないだろう。