旧暦のある暮らしを楽しんで
2014年08月01日
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マンションに住んでもう三十数年。窓を開け、自然の風を楽しむなどという季節はほんのわずか。暑くなれば扇風機を回し、エアコンをつける、寒くなればまたエアコンを入れるというのが、習慣になってしまった。 小さなベランダには、エアコンの室外機が設置されているので、洗濯物の乾燥には最適だが、植物を育てる環境ではない。観葉植物を二、三鉢、室内に置き、たまに花を飾るくらいが、私の自然とのおつきあいだった。西に東にあちこち飛び回っていた現役時代はそれでもよかったが、定年退職後は、コンクリートの箱の中で、毎日がのっぺりと過ぎていくだけだった。 そんな時、俳句の勉強をはじめて、「歳時記」を繰るようになった。俳句を詠むのには、季語が欠かせない。それで、四季折々の、時候や、天文、地理、生活、行事、動物、植物に関心を持つようになった。 加えて「日本の七十二候を楽しむ」(白井明大文・東邦出版)という本を手に入れて、あらためて、日本には二十四の節気と七十二もの季節があることを知らされた。 今までは毎日を何気なく過ごしてきたが、旧暦を意識するようになってきてからは、いつも「今日は何の日?」と、暦を繰る。「夏至」とあれば、「一年でもっとも日が長いのね」と家事にいそしんだり、「小暑」に入ったら、あれこれ暮らしの夏支度を始めたり、暑中見舞いを書こうかなと思ったり。 買い物の最後には、花屋に立ち寄り、切り花を買ったり、旬の食材で料理を作ったりと、狭い部屋の中にも季節を取り入れてみた。時には、七夕祭りやほうずき市にも心が騒ぐ。これを知っても俳句は思うように上達しないが、マンション暮しには、メリハリが生まれた。 ちなみに八月には、三つの節気がある。それぞれに、初侯、次候、末候があるが、そこまで細かく気にしなくても。 大暑(新暦の七月二十三日頃~八月六日頃) もっとも暑い真夏の頃。土用のうなぎ、風鈴、花火、浴衣、打ち水、夕涼み、蛍狩り、蝉しぐれなど、風物詩が目白押し。 立秋(八月七日頃~二十二日頃) 秋の気配がほの見える頃。暑い盛りだが、これ以降は夏の名残りの残暑。この日から、手紙も残暑見舞いに。ひぐらしが鳴き初め、木の葉から雨が落ちてくる樹雨(きさめ)などに気付いたり。 処暑(八月二十三日頃~九月七日頃) 暑さが少し和らぐ頃。朝の風や夜の虫の声に、秋の気配が漂う。立春から数えて二百十日目に台風がやってくるという二百十日は、九月に入ってから。 こうして旧暦を知ると、四季のある国に暮らす喜びを、目で、耳で、舌で、肌で、実感することができる。昔ながらの生活を見直すと、自然と共にあって、生き生きと暮らせる知恵が宿っていることも知らされる。 一日、一日を旧暦に添って過ごすようになったら、毎日の暮らしがどんどん楽しくなってきた。