七日間の私の「小さいおうち」
2014年04月01日
◎
三月、いよいよ我が家のリフォーム工事がはじまった。荷物の段ボール詰めは、順調に終了。問題だったのは、工事期間中の自分の身の置きどころだった。早くから軽井沢のリゾートマンションに籠ろうと決めて予約。シーズンオフだから料金が安い。寒いから、観光でもないと、本やパソコンを持ち込み、作家気取りで執筆に打ち込んでみようかと、張り切っていた。 ところが大外れ。記録的な大雪で、新幹線は間引き運転、スーパーは品薄、ゴミの収集もままならず、積雪は1メートルを超えるとか。本や食料品を送ろうと思っていたが、宅急便もお断りだった。やむなく軽井沢はキャンセルした。 それならと、急遽、中央線で二つ先の駅、吉祥寺のビジネスホテルに連泊することにした。家から近いのは便利だが、狭いのはわかっていたし、料理も、洗濯もできないだろうと、ちょっと失望していた。 だがビジネスホテルは、現役時代、出張時に利用しただけだったが、昔とはずいぶん変わっていた。特に一泊五百円高いレディースルームにしたので、狭いけれど便利なものがそろっていた。 室内のデスク回りには、テレビ、冷蔵庫、空気清浄機、加湿器、ポットが完備され、食器やカトラリーも無料で借りられる。パソコンは持参したが、直ちに接続できたし、携帯の電源もある。腕時計や指輪を置くかわいいトレイもあった。 ベッドはセミダブルで広々休めるし、クッションも、ナイトシャツ(浴衣ではない)もついている。壁には花の複製画が飾られ、安らげる雰囲気づくりもされていた。 サニタリーには基礎化粧品がズラリ。アメニティーグッズもあって、使わなければ、そのかごのグリーンコインをフロントに出せば、森を育てる一助となるとか。 廊下には、コインランドリー、乾燥機もあり、自販機も置いてある。ロビーには、ソファがあり、新聞三紙をゆったり読める。新聞は無料で部屋へも持ち込めた。 朝食、夕食は、豊富なテイクアウト食品を組み合わせ、熱いお茶を飲みながら部屋でゆっくり。ランチは、外食。寒い春だったが、ホテルにいる限り、空調のきいた空間で、七日間、寒さ知らずに過ごせた。 それに、ちょっとあこがれていた吉祥寺暮らしが体験できたのも、うれしい誤算。毎日のように、井の頭公園はじめ、レストラン、雑貨屋などおしゃれスポットをめぐったり、観落としていた話題の映画「小さいおうち」も歩いて観に行った。それから、肉屋、乾物屋、菓子屋など、庶民的な食料品市場、ハモニカ横丁にも足を延ばした。そうした、都会的な面と、庶民的な面と、二面性が同居しているのが、吉祥寺の何よりの魅力か。 吉祥寺は、この四月、大きく変わる。駅に、大きな駅ビルが建ち、南北を結ぶ通路も開通。井の頭公園は、「かいぼり」という、三十年ぶりの水抜き作業が行われ、増えてしまった外来種を除去し、池の生態系を取り戻し、水質をよくしたそう。お花見の頃は、きれいになった池も眺められるだろう。 というわけで、せっかく持ち込んだパソコンは、メールとネットだけ。読書も、寝る前のひとときのみ。ホテルへ籠って、じっくり小説や俳句に取り組むと言った本来の目的は果たせなかったが、思いがけなく充実した毎日が過ごせた。 七日間の滞在では、吉祥寺はまだまだ行きそびれたところがある。電車で二駅なのだから、これからは泊まらなくても、時々、この街を探訪してみたい。さて帰れば、我が家はきれいになっていたが、山と積まれた十八個の段ボール箱が、私の帰りを待っていた。