花の季節が過ぎても
◎
我が家の向かいの桜の古木はすっかり葉桜になった。眩しい緑をたたえている。その下を通って、今朝書店へ村上春樹の新作「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を買いに行った。行列はできていなかったが、飛ぶように売れていた。代表作は大体目を通しているから、読むのが楽しみだ。 ところで、私の最初の短編小説集「繭の部屋」の発売から、ほぼ一か月がたった。小説は八年間書きためたものだが、自費出版の製作を開始したのは十月だった。一冊の本の構成から、紙選び、装丁、原稿と写真の入稿、校正まで、約半年かかった。データ渡しだったから、その間、デザイナーと編集者に会ったのは、紙選びの1回だけ。全部、メールと電話でことが進んだ。本作りもそういう時代になったのだ。 二月末、二百冊の「繭の部屋」が、印刷所から私の手元に届いたときは、感動した。お世話になった方々に、お送りしたり、発売ご案内のハガキを書いた。まもなく「届いた」、「買った」、「読んだ」のうれしいメールやお便りが山のように送られてきた。拙い作品なのに、「面白かった」と言ってくださる方もいた。さらに、お祝いの会までいくつか開いていただき、恐縮している。 そんな反響も一段落した三月末、国立国会図書館と地元の杉並中央図書館へ「繭の部屋」を寄贈して、締めくくりとした。図書館の蔵書の検索をすると、この本が出てくる。子供も孫もいない身には、これで私がいなくなっても、本はずっと残ると思うと、かけがえのない記念碑になった気がする。 友人、知人の中には、「次はいつ出すの?」と、気軽に声をかけてくださる方がいる。私も、書いたり、読んだりするのは大好きだから、これで打ち止めにすることはできそうにない。これからは、いつとは決めず、ぼちぼち書き進めていこうと思っているところだ。皆様、ありがとうございました。